元気げんきになった魔女からおどろきの一言ひとこと

『はぁ?なんであたしがチビスケのなみだなんざるんだい。』だって。

それじゃ、あたしのナミダはどこにあるの?

そう聞くあたしに、魔女はいいことをおしえてくれた。

『そんなに知りたきゃ、洞窟どうくつ神殿しんでんに行くといいさ。
なんでも ねがいごとをかなえてくれるって話だよ。ケケケ……。バズー!案内あんないしておやり。』

なんでも……願いごとを?ホントに?

でも、ここまで来たんんだ。いくっきゃない!



*********


 

カッ……カッ……カッ……
コツ……コツ……コツ……

あたしとグランディの足おとがひびく。

あたしたちはまっくらな洞窟の中を歩いていた。

魔女の言っていた神殿がこの先にあるらしい。



神殿は丸一日まるいちにち歩いた岩山いわやまの中にあった。

人が立ち入りそうにないところにポツンとあいた洞窟。

神殿とは言うものの、かざりっなんて何にもない。

もしかして……魔女にからかわれた?

とりあえず、案内してくれたバズーは外で待っててもらって、あたしとグランディが洞窟へと入った。




「なんでこんなに暗いの?グランディどこにいるの?」

「わたくしはここですわよ。むこうに見える小さな明かり。とにかくあれを目指めざしましょう。」

「こんなに暗いのはじめてかも。自分の体も見えないわ。」

「ちょっと!エルシー。あたしの足をらないでくださいな。」

「へへへ。ごめん。」

あたしの心はワクワクしていた。

いや、ドキドキかな?それともピョンピョン?

もう少しでナミダがもどってくるかと思うと、楽しい気持ちになれた。

それにしても、グランディも何かお願いするのかな?

あたしは自分のことばかり考えてたから、ここに来るまでに聞いてなかった。



ゴールの明かりまであたしたちはたどりついた。

そこは……大きな空間くうかんが広がっていた。

ノームの村なんてくらべものにならない。

天井てんじょうも高い。そしてあつい……。

カベのいたるところからほのおがふき出している。

でも、そんなものが気にならないくらいのモノが、目の前にあった。……いや、いた・・

「…っ、サラマンダー!!?」

グランディがさけんだ。

この広い空間がせまくかんじるくらいの巨体きょたい。まっなトカゲのすがたにはねがはえてる。

ボゥと口から火がもれる。

「サラマンダー?っていうの」

「そのようですが……この大きさは普通ふつうではありませんわ。火の精霊せいれいで、ノームやシルフと同じくらいの大きさしかないはず、なのに……。」

「ねぇ、あなたが願いごとをかなえてくれるの?」

あたしはビシッ!とサラマンダーをゆびさした。

神殿とおぼしき石づくりの台座だいざから顔を上げると、あたしたちの方をゆっくりと見た。


ゴォゥゥ!


サラマンダーは口からかるく炎をだす。

〈…なにが のぞみだ……。〉

声が聞こえた……。

でも、耳で聞いたというより、心にひびいたかんじだ。

あたしはグランディを見ると、同じように聞こえていると合図あいずするようにうなずいた。

ビンゴだ!

どうやらこのサラマンダーがねがいごとをかなえてくれるらしい。

「あのね。あたし、ナミダをだれかに盗られたみたいなの。だからそれをかえしてほしいの。」

「それでは、わたくしからもおひとつ。エルシーとわたくしをミシェルという子がいるおおちに帰していただけますこと?」

「……えっ?それでいいの?」

「ん?ほかになにかございます?」

「ううん。……ありがと。」

あたしは、グランディの気持ちがうれしかった。


ゴォゥゥ!

サラマンダーはあたしたちにむかって炎をはいてみせた。

〈 ……よかろう。ただし、わが炎にそのがたえられたなら……その願いをかなえてやろう。〉

「………そんなの…。」

「エルシー。さがって、わたくしのうしろにかくれてなさい。」

「でも、あんな炎が相手あいてじゃ……。」

「だいじょうぶですわ。わたくしにもココロエがございますのよ。」

グランディはボソボソと何かをつぶやく。

すると、あたしたちとサラマンダーの間に風がクルクルとウズをまきはじめた。

そして、あっという間に二本の竜巻たつまき がうまれ、風のカベができあがる。

「さぁ、いつでもよろしくってよ!」

「ちょ…グランディ……。」

あたしにはそれをめる時間はなかった。


サラマンダーがスゥゥゥゥといきをすいこむ。そして……

ゴゴゴゴフォォォォォゴゴゴッゴゴゴッゴゴ!!!!!!!!!!!!

サラマンダーの口からはなたれた炎があたしたちをおそう。

おどりくるう炎の赤や黄色やオレンジの光におどろいて、あたしは目をつむった。

ビュォオオオオオォォォゥゥゥ!!!!

何も見えないあたしに、こんどは強風きょうふうがおそってきた。

風で体がきそうになったが、なんとか足でふんばって、地面にくいつく。




それはどれくらいの時間だったんだろう。

ちょっとのようにも感じたし、ものすごく長くも感じた。

あたしは風がおさまるのをって、ゆっくりと目をあけた。

まわりの景色けしきがボゥとかすむ。

……… ゆきがふっているように見えた。

でもその雪は……黒い雪だ。

いくつもの黒い雪が、綿毛わたげのようにフワフワとゆっくりとただよいながら落ちてくる。

あたしは何がおきたのかわからなかった。



ハッとしてあたしはさがした。グランディが……いない。

竜巻もない。

目の前にいるのは……サラマンダーだけ。

あたしはしゃがみこみ、ふりつもる黒い雪にふれてみる。

指さきにこびりつくそれは、何かがえたあとにのこるのススだと気づいた。

その、かるくてせつないまっ黒なススがなんなのか……あたしは思いあたる……。

「……グランディ……ちがうよ……そうじゃ…ないんだよ…………。」



ポッ……ポタッ…………

あたしの顔から水がおちていく。

目から…ナミダが……

それはつめたくも、あつくもかんじた。

でも、そんなことは今のあたしにはどうでもよかった。

頭の中はグランディのことでいっぱいだった。

いつだってたすけてくれた。

あたしを見てくれていた。

いじわるいところもあるけど、やさしくもあった。

そんなグランディを思うと…あたしの目から涙が……ボロボロとこぼれて止まらなかった。



「これ……どういうこと?……あんた…なにしてんの……?」

むねがあつい。あたしはこみ上げてくる思いがおさえきれず、はちれた。

「あんた、なんでも願いごとをかなえてくれるんでしょ!ナミダなんかいらない。グランディをかえしてっ!あたしはあなたの炎にたえたんだから……グランディをもとにもどしてよぉぉ!!!」



あたしは涙でサラマンダーがぼやけて見えた。

どうしてそんなふうに見えているのか、考えている余裕よゆうはない。

それよりも、もと世界せかいにもどしたかった。

時間をもどしたいと思った。

グランディといっしょにミシェルのところへ……かえりたい……。




〈 それが、おまえののぞみか……。〉

「そうよっ!」

〈 …ならば……もう一度、わが炎にたえるがよい……。〉

そんな……。でも、ここであきらめたら、もうグランディに会えない気がした。

「や……やってやるわよ……。―――かかってきなさい!!!!!」

あたしは強く目をとじた。目にたまった涙がはじけ飛ぶ。



ゴゴゴゴッゥォォォォゴゴゴフォォォォォッッ!!!!!!!!!!!

そして、烈火れっかの炎と灼熱しゃくねつの風があたしをつつんだ。




*********


 

……あれ?……何にも見えない……。

うすやみの中にあたしはいる……いや、いるような気がする。

ここはなんだか あたたかくて、安心あんしんする。

それに、フワフワと 体が浮 いているようなかんじだ。

《 ここはどこなんだろ?》

あたしは考える。でも答えはでない。

だんだんとめんどうになってきて、考えるのをやめた。


「…………エルシー………。」

遠くから声が聞こえた。

あたしは、どこから声がするのかさがすわけでもなく、そのままにした。


「ちょっと……エルシー!…………。」

《 も〜、だれ?》

聞きおぼえのある声だ。

むかし、いっしょにあそんでたのしかったような…そんな記憶きおくが…あるような……。

「…エルシー……どうして、……。」

《 あっ!この声、知ってる……え〜と……。》

思いだせそうで、思いだせない。どうして名前が出てこないの?

あはは……。

そんな自分がこそばしくて、おかしかった。


 

――――――――――っ!?

あたしは目をました。

そばにはグランディがいて、目に涙があふれていた。

「……あの……。」

「―――ぁ!?エルシーっ、気がつきましたの!?よかったぁ!よかったぁ!ほんとによかったですわぁぁぁ!!!!!!」

グランディはあたしを思いっきりだきしめた。

いる。

たしかにグランディがいる。ゆめなんかじゃない。

「グランディ。泣いてるの?」

「!?あたしとしたことが……そんなわけ……ありませんわ。」

グランディはあたしにプイっとをむけて、涙をぬぐっているようだ。

あたしはそんなグランディの背中せなかにだきついた。

「あたしもね、心配しんぱい……したよ……。」

目に涙がたまってくるのがわかる。

グ……ウワァァァァンッ!!
ヒグゥ……グッ……グズっ……

あたしは泣いた。いっぱい泣いた。ぼろぼろ……泣いた。




あたりは暗闇くらやみというか……黒一色くろいっしょくの世界だった。

カベがあるようでもないし、 出口 でぐち があるようでもない。

それでも不思議ふしぎ とグランディのすがたはハッキリと見える。


「わたくしも気がついたらここにいましたの。」

「ここはどこなの?あたしたち…死んだの?」

「オホホホ。そうかもしれませんね。死んでなお、あなたといっしょなんて……はぁ。」

「?それ、どういうイミ?」

「なんでもありませんわ。オホホ。」

そんなことを話していると、とつぜん空中くうちゅうに光がまれた。

キラキラと虹色にじいろにかがやく光は大きくなり、その中から人があらわれた。

あたしはその人は " 女神めがみさま " だと、そう思った。

〈 ……はじめまして。エルシーに、グランディ……。〉

あたしは、あっ!と思った。サラマンダーのときと同じ。心に話しかけてきた。

「だれ?」

と、あたしは思わず口にしてしまった。

〈 …ふふふ……。そうね、いろんな び方をされるけど……おふたりには " ルーナ " と 名乗なのっておきましょう……。〉



グランディが一歩いっぽまえにでた。

「はじめまして。ルーナさん。ところで、あなたはあのサラマンダーなのかしら?」

〈…わたしはこの世界のまもがみです。サラマンダーは、そのカリのすがたです……。〉

「わたくしたち、ある人に言われて……たぶん……あなたに会いにきましたの。」

〈…ふふふ……魔女まじょ が……あなたがたをここに みちびいたのでしょ……。〉

「あの……ルーナさんは、ランダさんのこと知ってるの?」

〈…そうね……むかしね。……それにしても、彼女かのじょらしいわ。お人形にここをおしえるなんて。……でも、あなたがたを見て、それも分かった気がします……。〉




女神さまはやさしい目をあたしにむけた。

〈…エルシー。ふふふ…はじめて涙をながしたのよね。どうだった……?〉

「え?……その……わかんない。」

正直しょうじき、あたしはちょっとはずかしいと思ってた。

だって、あんなに気持ちを外に出したことなかったから。

かなしい気持ち。くやしい気持ち。そして、うれしい気持ち。

思いが心の外にとび出したら、 自然しぜんと涙が出てた。

〈…あなたは、グランディのために泣きましたね。だれかのために涙をながすことは……なかなかできることではないのよ。…涙は……心の おくにある大切なもの……かけがえのないものにふれたとき……なが れるのよ……。そのことをわす れないでね。……あなたは、もう涙を くすことはないわ……。〉

そういうと、女神さまはそっとあたしのホホをなでた。

その手はとてもやわらかいと思った。




〈…グランディ。あなたは悪魔あくまのチカラをもっていますね……。そのチカラをエルシーのたてとして使い……最後さいごよろいとして使った……。少しおどろきましたわ……。〉

「ちょ……と、それは……言わないでいただきたかったですわ。」

〈…ふふふ…ごめんなさいね。……とくべつなチカラは……それを持つ者を まどわせ…強大きょうだいになるほど自分のためにふるうわ。……でも、あなたはだれ かのためにチカラを使うのね……。これからも正しくつかうのよ……。そうすれば…あなたがそのチカラを持つことになった 意味いみを……知るときがかならずくるわ……。〉




女神さまは、スーっと空中にのぼっていく。

「あの……どこへいくの?」あたしは女神さまをいかけようとした。

〈…あなたがたの、ねがいを……もうひとつ、かなえますわ……。〉

「?わたくしたち、死んだんじゃございませんの?」

〈……ふふふ……今日はたのしかったですわ……。彼女にも、よろしくね……。〉

女神さまがかがやきだすと、最初さいしょ虹色にじいろの光になった。

パチンっ!と音がすると、その光にあたしとグランディはいこまれていった。




つづく

 

 

モラリィの花

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