小人のノームが3人泣いていた。

ワケを聞くと、おそろしい魔女の召使めしつかいにさせられるそうだ。

魔女!?

ようやく近くまできた。

しかし、こまってる人をほっとけない。

のりかかったフネよ。まかせなさいっ!

その召使い。あたしがやってあげる!



*********



コンコンっ

あたしはトビラをノックした。

いま、魔女の家のまえにいる。

ノームさんたちにつれてきてもらった。

でも魔女の家の屋根が見えたとたん、ノームさんはまわれ右してもうダッシュ!

ピューっといなくなってしまった。

どうやら、それくらい魔女ってこわいらしい。

でもあたしは、魔女からナミダを取りかえすために来たんだ。

こわいからって……逃げてらんない!


しばらく待ってみたけど、家の中から返事がない。おルス?

コンコンコンっ

もう一度、トビラをたたいた。

ギギギっギギギギッ

おもそうなトビラが、ゆっくりと開きはじめた。

玄関げんかんには、なぜかひとかげが見あたらない。

かってにトビラがひらいたみたいだ。

魔女の家だ。きっと魔法か何かかかもしれない。



家の中はうす暗く、しかしそれよりも目にとびこんできたのは、ちらかりほうだいの部屋だ。

「こんにちは〜。だれかいませんかぁ?」

あたしは家の中をのぞきこむ。

すると、部屋のおくの暗がりからスーゥとカゲがあらわれた。

魔女だ!

あたしはすぐにそう思った。

だって、黒づくめの服がいかにも魔女だといわんばかり。

『ケケケ……ようやくきたかい。こなかったらどうしてやろうかと思っていたところだった……よ???』

魔女のするどい目がキョトンとしている。

まぁ…そうなるのも当たり前。ノームがくると思ってたんだから。



「あなたが魔女さん?」

『はぁ?……なんだい、あんたたち。……人形がなんか用でもあんのかい?』


??……あんたたち・・・・・


「オホホホ。ごきげんよう。」

いつもながらとつぜんだ。あたしの後ろにグランディがいた。

「……いつからそこにいたの?」

「まぁそんなこと、どうでもいいじゃございません?」

『あたしゃ、人形に用事はないよ。さっさと帰っておくれ。』

「あっ!あの、ノームさんたちの代わりにきました。」

『??? ノームの代わりだぁ?』



魔女は言葉をはきすてたあと、ジロジロとあたしたちを見まわした。

そして「ふ〜ん」とか「はぁ〜」とか「…なるほど」とか言った。

グランディを見て、とくにイジワルな顔つきになった。

『ケケケ……。あんた、その力、どこで手にいれたんだい?』

すごい。さすが魔女。

グランディが何かの魔法を使う人形だと、すぐに見やぶった。

あたしはそのことを、この前はじめて知ったのに。

「さて、どこかしら?昔のことですからわすれてしまいましたわ。」

『悪魔の力だね。』

「それなら、あなたも同じじゃなくて?」

『カァーーカッカッ!コワッパが言うじゃないかい。……それにしても、あんたはなんだい?』

魔女はあたしの服のえり首をつまんでもち上げた。

「" あんた " じゃないわ。エルシーっていうのよ。魔女さん。あなたにはお ねがいがあるの。あたしのナミダをかえしてちょうだい。」

魔女はちょっと目をほそめたあと、ちゅうへ目をそむけた。

あっ!とぼける気だ。

魔女はあたしをポイっとほうりなげた。

すんでのところでグランディがキャッチしてくれた。

『まぁいいさね。あんたたち!今日からコキ使うよ。カクゴするんだね!ケケケっ!!!』

やっぱりはぐらかされた。

でも、いっしょに住むんなら、いつだってチャンスはあるはず。

かならずナミダをかえしてもらうんだ。



*********



魔女の名前はランダ。

さいきん、ここにうつり住んだらしい。

家の中にはカラスが 一羽いちわいた。

" ツカイマ " ってグランディが言ってた。

きっと、おつかいをしてくれるんだ。

カラスの名前はバズー。

魔女とおなじようにまっ黒で、目つきがするどい。



魔女に言われたのは、部屋のおかたづけだ。

床いちめんに本とか服とか食器とか、いろんな物がころがっている。

どうやったらこんなにらかるの?

おうちを一回サカサマにして、クルッともとにもどしたって言われても不思議ふしぎに思わないもの。

体の小さなあたしだって横になれるような場所はない。

ミシェルのおうちとは大ちがいだ。

「ねぇ、グランディ。どうしよう。あたし、おかたづけなんてやったことないわ。」

「ふぅ。まずは床の物をスミによせましょう。でないと、始まりませんわ。」

そう言えば、〈 おかたづけ 〉ってミシェルのお母さんがよく言ってた。

ミシェルはその度にイヤそうな顔になってたけど……。

たぶん、とっても大変なことなのかも?



あたしは物のジャングルをかきわけ進んでいくと、ぼうを発見した。

あっ!これはミシェルのおうちで見たことあるやつだ。

おそうじをする時に使ってた。

「ねぇねぇ、これなんだっけ?」

「モップでございましょ。床をきれいにする道具ですわ。」

床をきれいに? おかたづけにピッタリの道具だ。

あたしはモップを手にとってみたが、重くて持ちあがらない。

とうぜんだ。人間の大人がつかう大きさだ。

「グランディ。これ重くてもてない……。」

「バカがムチャしちゃいけませんわ。」

グランディはボソボソと何かをつぶやいて、指でチョンとモップにさわった。

すると、つむじ風のようなものがモップにまとわりついたように見えた。

「これでいかが?」

「あれ?すっごい!かるくなった。」

「モップはあとで使いますから、横においといてくださいな。」

グランディって本当に魔法が使えるんだ。

あたしも使えたりするの? 今度おしえてもらおう。

でも、せっかくモップが使えるんだ。

ミシェルがおうちをキレイにしていたように、あたしもやってみたい。

たしか……こうして……。

モップのモサモサした部分を床につけ、あたしは棒の後ろをもって、いきおいよくおしてみた。



ダダダダドダッッッダダゴダダダッっ

風のようにモップとあたしが床をかけぬける。

バコッォォッッ!

ベシシッツッッ!

ころがっている物がモップに当たり、右に左に飛んでいく。

「エルシー!ちょ…ちょっと。ちらかさないでいただけます!?」

「だって、モップがとおったところはキレイになってるわよ。」

あたしは向きをかえて、もう一回モップをすべらせた。



バタッダタタタタッダタダッッッダタタタ

ゴゴッツツツッ!

ガンッンンッッ!!

ダアンンンッッ!!!

ふりかえると、モップがとおったところには物がない。

あたし、知らなかった。

キレイにするってとっても気持ちがいい!

グランディが何やらキーキー言ってる。

きっとあたしだけおかたづけが早いから、ヤキモチやいてるんだ。あははっ。



ミシェルはどうしてイヤな顔してたんだろ?

こんなに楽しいのに。

「さぁ、今度はこっちよ!」

ズドドドッダッッッダダダドドドッッ 

ドタタタタッダトトトッダタタガダトトダダダッッ

モップがあたしの体の一部になったみたい。自由じゆう自在じざいだ。



ゴツンッっゴゴッッ!

ドバタァァァァァァンッッ!!

バシンッッ、ガシャぁぁぁぁんッッ!!!


そこへ魔女がやってきた。

『チビスケども、ちゃんとそうじを……。』

タイミングが悪かった。

モップがアルミのお皿をカンッ!とはじいた。

お皿は閃光せんこうのごとく、魔女のひたいめがけて一直線いっちょくせん……。

ゴッ………
『――― っあだぁ!!!!!!!!』


にぶい音がした。

…………カラン。

お皿の音だけがして、あたりは静かになった。

グランディは《 アチャ〜》って顔をしてる。

魔女の顔はマッカッカだ。

あたしもこの後に何がおこるのか、なんとなくわかった。

『なななななっ!!なにやっとんじゃぁぁぁああ!!!!!!』

……おこられた。



*********

 

あたしは魔女の部屋につれてこられた。

おかたづけはグランディがやるから、あたしはもういいって。

うすぐらい部屋の真ん中にジュウタンがしいてあって、そのまわりはいろんな物が山となっている。

ひからびた植物や分厚ぶあつい本、クシャクシャの紙ぶくろ、……よくわからないものがいっぱいだ。

魔女が指さしたのは小さなコンロ。

コンロには火がついていて、ガラスのコップの中の黒い水をあたためてるみたい。

『あんたはこれをやりな。』

小さなコンロに火がついていて、その上のガラスビンにまっ黒な水が入ってる。

『ケケケ……。このぼうで、ゆっくりかきぜるんだよ。』

「わかったわ。でも、あたしビンまでとどかない。」

あたしは手をおもいっきり上にあげ、背のびをしてみせた。

『?しょうがないね……。』

魔女は荷物(…ゴミ?)の山をかき分けると、さもそこにあるのが分かっていたかのように木の板と本をいくつか取り出した。

そして、あたしがコンロにとどくようにそれらをつみ上げると、足ふみ台を作った。

「ありがとう。」

『そら、台の上にのりな。あたしが「いい」っていうまでかき混ぜるんだよ!ケケケ……。』

そう言って、魔女はどこかにいった。

あたしは足ふみ台に立つと、クル〜リクル〜リ黒い水をまぜはじめた。



しばらく時間がすぎた。

黒い水からはうっすらと湯気ゆげがのぼっている。

それ以外にかわったところはない。

あたしは棒でゆっくりとかきまぜた。


さらに時間がすぎた。

とくにかわったところはない。

魔女が見にくるようすもない。

これ、どこまでやったら終わりなの?

きっと魔法のおクスリとか作ってるのよね。

それなら黒い水は……、魔法っぽい別の何かにかわるはずだ。

あたしは休むことなく、クルリクルリかきまぜた。



さらにさらに時間がすぎた。

黒い水は黒い水のまんまだ。

これって早く終わらせられないの?

「おーい。黒いお水さ~ん。」

あたしはガラスコップの中に話しかける。

もちろん水が返事をするわけない。

あたしだって、変なことしてるってわかってる。

そんなことをしてしまうくらい、変化のないこの水にあたしはアキアキしていた。

う〜ん。……そうだ!

あたしは木の棒をガラスコップのふちに横置きにして、足ふみ台からヨッと飛びおりた。

そして、そのままタタタッとグランディのところに向かった。



「グランディ、これなんだけど……。」

あたしは、魔女の部屋にグランディをつれてきた。

「なんでございますの?わたくし、おかたづけでいそがしいんですのよ。あなたの分までやってるんですから。」

「あのね、ランダさんにこれをかきまぜろって言われてるんだけど、もっと早くまぜられないかなって思って。グランディの魔法でこの棒をクルクルってできない?」

「いいですこと。魔法は気がるにホイホイ使うものではございませんわ。」

とか言いながら、グランディはボソボソ言って、ガラスビンの上で指をヒュンと回した。

すると小さなつむじ風が生まれた。

「エルシー、この中にそれを入れてごらんなさい。」

あたしはガラスビンの中に棒を入れ、棒のおしりをつむじ風に入れた。

すると手を使わずに、棒がクルックルッと回りはじめた。

「すっごぉぉっい!さすがグランディ!」

あたしはパチパチパチと手をたたいた。

「オホホホ。それほどのことも…ございますのよ。」

グランディもちょっとうれしそうだ。



「ねぇ、これってもっと早く回せない?」

「オ〜ホッホッホ!わたくしにかかれば、たやすいことですわ。」

グランディはつむじ風に指をいれ、シュッとすばやく指を動かした。

クルクルクルッ クルクルクルッ クルクルクルッ

棒がまわるスピードが早くなった。

カタッタカタカタカタカタっ

棒の先がガラスビンにはげしく当たる。

うん、これなら早くできそう。

そう思ったてたら、黒かった水がだんだんと赤くなってきた。

ほら、やっぱり。思ったとおり。魔法のお水のできあがりだ。

ポコポコいいはじめたな水は……

シューーーーーーー
「?! エルシー!ふせて!!!!!!!!!」

チュドガァァァァァァアアアアアアァァァァンッッ



…………はじけた……ビンが……

あたしはグランディに服をひっぱられ、なんとか足ふみ台のカゲに入って助かった。

グランディも無事だ。

でも目の前のコンロには、あったはずのコップがきれいに無くなっている。

その代わりに、空からパラパラとガラスの破片はへんがふってきた……。



ドタドタドタタタタッッタタドタタっ

爆発音ばくはつおんを聞いて魔女が走りこんできた。

ガラスビンが中身ごととびちっているのを見て、すぐに全てを理解りかいしたみたいだ。

『ば…ば…ば…バカもぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!!!』

また、おこられた……。



*********

 

『……今度はちゃんとやるんだよ。いいね!』

あたしは今、台所にいる。

「あたし、料理なんてやったことないわ。」

自信じしんマンマンのあたしの言葉に、魔女はこまった顔をした。

そこで、グランディもいっしょに料理をすることになった。

「お料理?わたくしが?……エルシーといっしょに……。」

「だってあたし、作ったことないもん。」

グランディがジト~としたよこをあたしに向けてくる。

「はぁ……。仕方ありませんわね。」

かたを落としながら、ため息まじりにオーケーしてくれた。

「エへへ。やった!」

あたしは今日がはじめてのお料理だけど、グランディといっしょならきっと出来る気がする。

足手まといにならないようにガンバル!

期待きたいはしてないがね……。まずくなきゃいいさ。ケケケ……。』

なにそれ?ヤな言い方!




「グランディはお料理できるの。」

「オホホホ。レディのたしなみていどにはね。………それにしても、あなたとかかわってるとロクなことがないのは気のせいかしら……。」

「どういうイミ?」

「……まぁいいですわ。料理のキホンはてぎわ・・・ですわ。まずは、ちらかってる物をきれいにまとめますわよ。」

たしかに、台所のちらかりぐあいはほかの部屋とかわらない。

床にころがっている物をわけていく。

「ねぇ、この石っコロはなに?」

「それはジャガイモですわ。食べものチームよ。」

「たべもの?砂ついてるし、カチカチだよ。石じゃないの?」

「お野菜よ。ほら、そっちに持ってってくださいな。」



「このお皿、穴だらけね。」

「ザルですわ。あとで使いますから、そっちにおいてちょうだい。」

「スープとか入れても全部こぼれちゃうね。あはは!」

みずを切るためのものですわ。道具にはそれぞれの使い方がございますの。」



こうやって、食べもの、道具、食器、調味料ちょうみりょうのグループに分けていった。

「エルシーは、なにか作りたいものはあって?」

「あのね、野菜がたくさん入ったおナベを見たことがあるわ。ミシェルがよろこんで食べてた。」

「たぶん……きっと " ポトフ " ね。かんたんだから、それにいたしましょう。」

グランディはなんでも知ってるだけじゃない。

なんでもできる。あたしもグランディみたいになりたいと思った。



ー ポトフの作りかた ー

うつわに水としキノコを入れて水もどしをする。時間がかかるので、料理のまえにやる。

②ナベに水とし肉をいれ、塩も少々いれる。

③ナベを火にかける。

④お湯がわくまでの間、おこのみの野菜を切っておく。

⑤お湯がわいたら、野菜をいれていく。火がとおりにくいかたい 根菜こんさいから順番に入れる。 葉物はものは最後のほうに入れよう。

⑥水もどししたキノコを入れて、塩で最後の味つけをする。

⑦火を弱火よわびにしたら、フタをして、じっくり煮込にこもう。

⑧煮込みおわったら " 野菜たっぷりポトフ " の完成だ!

干し肉と塩だけで味つけするのがポイント。

塩のえらびかたで、味が大きくかわる。今回は岩塩がんえんを使ってみた。



「できたっ!」

「夕食どきですし、あの方を呼んできてくださいな。」

「わかった。」

あたし、包丁ほうちょうなんてはじめて使った。

もちろん、あんな重いもの持てなかったから、グランディの魔法に助けてもらった。

ミシェルのお母さんはトントントンなんてリズムよく使ってたっけ。

でも、あたしはそんなふうにはできなった。

だからお野菜も小さいのや大きいのがじってる。

それでも一所懸命いっしょけんめい《 おいしくなぁ~れ 》って作ったんだ。

「うん!きっとランダさんもよろこんでくれるはず。」

あたしは魔女のところへ足ばやにむかった。

気に入ってもらえるだろうか?

ドキドキの実食じっしょくタイムだ。


『さて、いかがなもんかね。』

魔女はスプーンを取りだすと、ナベの野菜をすくいとった。

そして、小さめの野菜を口にほうりこむ。

『ケケケケ……。なかなかうまいじゃないか。』

大成功だっ!よかった。

あたしははじめて魔女にほめられた。

「グランディ。よかったね。」

「ま、とうぜんじゃございません。オホホホ。」

こうして、怒涛どとうの一日がおわった。


気を良くしたあたしは、お料理当番をかってでた。

「毎日おいしい料理をつくるんだ。そのうち、グランディの手をりずにできるようにならなきゃ。」

次の日もあたしはおいしいポトフを作った。

そして、次の日も得意とくいのポトフを……そしたら、

『毎日ポトフじゃ、さすがにアきるわぁぁぁいッッ!!!!!』

けっきょく、また魔女をおこらせてしまった……。




つづく

 

 

黒いタツマキ

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