ドッペルゲンガーとの出会いはあたしたちには幸運こううんだった。

白いきりがたちこめる中、道がわからなくなったら聞けばいい。

「道がふたつありますわ。右かしら?」

『右だよ〜』

「じゃ、左だね。」


「道にまよったかしら?」

『間ちがってんぞ。引きかえせよ。』

「あってるってことだよね。このまま行こう!」

とにかくドッペルゲンガーとは反対はんたいの道をえらんで歩く。

たぶん、もうそろそろモラリィの花があるはずだ。



*********



ビュルルルルゥゥゥゥゥウウッっ

雲のカタマリがあたしたちをつつんで、そしてはなれていく。

白い景色けしきがぬけた先にひろがっていたのは、モラリィのお花畑はなばたけだ。

目のまえ一面いちめん にかぞえきれないくらいの青い花がさいている。

うすい青色の花びらがキラキラと光る。

間ちがいない!

「やった……ついた……。」

「そうですわね……でも…エルシー、ちょっとおちになって……。」

「ヤッっターーー!!!!!」

あたしはグランディの言葉を聞かずに、走りだした。

フカフカのお布団ふとんへ飛びこむように、お花畑に入るつもりだった……。

けど、前にすすまない……なんで?

下を見ると地面じめんがない。

お花畑も……そこにはなかった。


「エルシィィィィィィ!!!!!!」

グランディの悲鳴ひめいが聞こえた。

そして、片手かたて を思いっきり後ろに引っぱられる。

あたしはガケに飛びこんでいた。



ゴゴゴォガゴゴッゴォォォゥオオゥゥッ

強風きょうふうが下から空へとつきぬけていく。

今、グランディが必死ひっしであたしの手をつかんでくれてる。

そこは、ちればさかさまの深いガケだ。

ブランブランとちゅうれるあたし。

「やってくれましたわね!ドッペルゲンガー!!」

『アッカンベ〜だ。』

「あっかん……なんですってぇぇ!!!こんど会ったらタダじゃおきませんわ!!!!!」

「グランディ……はやく……ひきあげて……。」

「あぁ…そうでしたわ。」

グランディはボソボソっと何かをつぶやく。

すると、あたしの体が風につつまれた。

それはかたちがあるような、あたたかいような、そんな風だ。

フワフワとくように、あたしは地面に着地ちゃくちした。



ドッペルゲンガーはもういなかった。

グランディが手をはなしたのをいいことに、トットコにげたんだ。

でもドッペルゲンガーの案内あんないただしかった。

ガケの先にモラリィの花がふたつさいていた。

「青くキラキラ光ってる。花びらも5枚。グランディ、これだよね。」

「そうですわね。ドッペルゲンガーはこれをいくつもかがみうつしにして、あたしたちにお花畑を見せたんですわ。ユダンしましたわ。」

「だけど、モラリィの花もちゃんと手にはいったし。ランダさんのところにかえろ。」

あたしはモラリィの花を手にとると、服の中に大事だいじにしまいこんだ。



*********



山をおりたころには、もう夜になっていた。

ホ――――っ ホ――――ぅ
ヶヶヶっ  ヶヶヶっ

ヤミにまぎれた動物どうぶつたちの声が聞こえる。

不安ふあんになりながらも、あたしは魔女まじょの家を目ざした。

《 はやく……はやく……。》 

心がはやる。足も自然しぜんとかけ足になるのがわかった。



*********



ギギギィィギギィィイイイィィィ……

魔女の家のとびらをあけた。

ようやく着いた。もう真夜中まよなかだ。

「おお、エルシーたちが帰ってきたぞ。」

ワラワラとノームさんたちが出てきて、むかえてくれた。

「ただいま。」

「ふぅ…たいへんでしたわ……。」

「で……れいのものは……。」

あたしはニカっとわらい、服の中からモラリィの花をとりだした。

「どう?」

「うむっ、モラリィの花じゃ。」

おじいちゃんノームからもタイコバンをもらった。

これでバッチリだ。


「それで、あの方のぐあいはどうなのかしら?」

グランディとあたしは魔女の寝室しんしつにむかった。

ノームさんたちが看病かんびょうをしてくれている。

ストーブをたいて、魔女のおでこにはぬれタオルがおかれている。

「ワシらが来てからは一回いっかいも起きとらん。顔も青い。いきもあらい。ねつがらん。……もしかすると、危険きけんかもしれんな……。」

「グランディ。はやくおクスリを……。」

「そうですわね。ノームさん。言っておいたものは、そろえてあるかしら?」

「あぁ……。これじゃ。」

寝室のすみに、道具どうぐやら材料ざいりょうがまとめてある。

グランディは魔女がメモした紙ぶくろをみながら、あたしとノームさんたちに指示しじをだす。

コンロに火をつけ、その上に水の入ったガラスビンをおく。

つまり、あたしがこのまえ爆発ばくはつさせたのとおなじやり方だ。

材料をいれてひとたちさせる。

あたしはちかくにあった本をつみかさねて、ガラスビンの中をぼうでゆっくりかきまぜた。


コポコポコッポ……

「グランディ。アワがでてきたわ。」

「おつぎは……これですわね。」

取りだしたのはまっ黒なケシズミみたいなもの。

「……なにそれ?」

「?これは、うみモグラの目玉めだま乾燥かんそうさせたものですわ。」

「そっちは?」

にじヘビの心臓しんぞうのミイラですわね。」

「……本当に入れるの?」

「もちろんですわ。書いてあるんだからしょうがないでしょ。どうせむのはこのかたなんだし……。」

グランディはポイポイっとガラスビンに黒い物体ぶったいをなげこんだ。

とうぜん、水はドロ水のようににごる。

あたしは《 だいじょうぶかな…》と思いながら、クル〜リクル〜リと棒をまわした。



しばらくすると、白い湯気ゆげがたちのぼってきた。

「エルシー。モラリィの花を入れますわよ。」

「うん、わかった。」

あたしはモラリィの花びらをちぎり、ドロ水になげこむ。

うすい青色の花びらが、水面すいめんをスゥーとおよいでいく。

あたしはつづけて、ガラスビンの中をしずかにかきまぜはじめた。


「あの〜。エルシー。ボクたちもそれやるよ。かわるよ。」

ノームさんが声をかけてきた。

「ありがと。でもまだ平気よ。」

「エルシー。あなた、つかれてるでしょ。ムチャはいけませんわ。わたくしの魔法まほうでかきまわすこともできますのよ。」

グランディも心配しんぱいしてくれてる。

「でも、あたしにやらせて。こんどは失敗しっぱいしたくないの。」



どれくらい時間じかんがたったんだろ?

あたしはひたすらガラスビンの水をまぜている。

よく見ると、うっすらとコゲちゃからんだ色にかわっているみたい。

「オホホホ。ようやく反応はんのう してきたみたいですわ。エルシー、もうすぐできますわよ。」

「うん。」

ゴールはもうすぐだ。

あたしはそれでもあせらず、クルックルッとしずかに棒をまわす。

まわすごとに、水がモラリィの花びらと同じうすい青色になっていく。

クル〜リ、クル〜リ……

きとおった青色の水ができあがる。

「―――これで 完成かんせいですわ!!!」

「―――――――――――――――っ……」

あたしはフラッと足ふみ台の上でへたりこんでしまった。

背中 せなか をグランディがささえてくれた。

「よく、がんばりましたわ。」

「へへへ……。」

ノームさんたちからもパチパチパチパチパチっ!!と大きな 拍手 はくしゅ がわいた。



*********



「ねぇ、ランダさん。おきて。」

あたしは魔女のかたをゆすった。

はやくおクスリをのんでもらいたい。

魔女はのふかいいきづかいだけが聞こえてきて、目をあけるようすはない。

「グランディ。どうしよう……?」

「何かカタいもので、思いっきりたたいてみたらきるんじゃございません?」

「ややや、やめて……。こここ、コロされる……。」

グランディのセリフにびっくりしたノームが、ふるえ上がる。

「オホホホ。ジョーダンですわ。ジョーダン。でも、このままではいけませんものね。」

「なんとかして、おクスリのんでもらえないかな?」

「こうなったら、キョウコウシュダンでいくしかございませんわ。」

そう言うと、グランディはニヤリとわらった。

……イヤな予感よかん




「ほら、ノームさん。もっとひっぱって、口を大きくあけていただかないと。」

「―――そそそ、それっ……。」

あたしは今、魔女の口を横にひっぱっている。

反対側はんたいがわの口としたクチビルをノームさんがそれぞれひっぱっている。

ムリヤリ魔女の口をあけて、スプーンですくったクスリをのんでもらう作戦さくせんだ。

「ノームさん、もうちょっと。がんばって!」

あたしも応援おうえんする。……でも魔女いじょうにノームさんのかおが青ざめているのは……気のせいじゃないよね。

「もっとこしをいれてくださいな!それじゃスプーンがはいりませんわ。」

「ひぇぇぇぇっぇぇ……。」

グランディはガラスビンからできあがったおクスリをすくうと、そのままひらいた魔女の口にもっていった。

スプーンをかたむけると、おクスリが魔女の口にはいっていく。

「口をとじてくださいな。」

あたしとノームさんが、魔女の口から手をはなす。すると、

……………………ごくっ……

どうやらのんでくれたみたいだ。

「よかった……。」あたしはうれしかった。

「これで一安心ひとあんしんですわね。―――それでは、つぎ、いきますわよ!」

「ままま…まだやるの……。」

「もちろんですわ。せっかくつくりましたのよ。 全部ぜんぶのんでいただかないと。オホホホ。」




ノームさんたちにはこわい思いをさせたけど、十分じゅうぶんりょうを魔女にのんでもらうことができた。

あとは、クスリがきいてくるのをつだけだ。

魔女にしっかりと毛布もうふをかけてあげた。

そして、はやく元気げんきになるようにと魔女のそばであたしはいのった。



*********

 

あさになった。

太陽たいようはもうしっかりを顔をだしている時間だ。

外からは小鳥たちのはしゃぐ声が聞こえている。


魔女のねつあけまえにはがっていた。

顔色も青みがとれ、呼吸こきゅうもおちついた。

「おクスリがきいたみたいですわ。もう安心していいですわね。」

「よかったぁ……。」

あたしはホッとむねをなでおろした。

ノームさんたちは魔女の体がよくなったのを見て、村に帰った。

そのあとは、あたしとグランディで看病かんびょうをつづけた。


 

チッ……チチチッ
チュン……チュンチュン……

小鳥の声に気がついたのか、魔女が目をさました。

『……チビスケかい?………』

「うん。」

あたしは魔女が起きたのを見て、グランディの服のソデをひっぱった。

「ねぇ、ちょっと来て。」

「ちょ……ちょっと、なんですの?」

「朝ごはん作るの。手伝てつだって。」

「……そうですわね。栄養えいようをつけて元気になっていただかないと。」

あたしとグランディは台所だいどころにむかった。




スープのかぐわしいかおりがしている。

できた料理りょうりうつわにもって、魔女のいる寝室しんしつまであたしたちははこんだ。

つくったのは、アツアツの野菜やさいたっぷりポトフだ。

あたしは魔女にスプーンを手渡てわたした。

「どうぞ。」

スプーンを手にとった魔女の目になみだがみえた。

「?ランダさん。いてるの?
……ごめんなさい。あたし、料理はこれしかできないから。
でも、グランディがポトフは栄養もあるし、おなかにもいいって…… おしえてくれたの……。」

魔女はポトフに目をおとしながら、静かにこたえた。

『…………ケケケ……泣いてなんかいないさ…………わらってんだよ……。』

魔女は野菜をスプーンですくうと、ふ―――っとさましてから口にほおばった。

あたしはそんな魔女を見て、ちょっと安心した。




*********


 

朝ごはんがすんだあと、あたしとグランディは昨日きのうからのことを魔女に話した。

ノームの村にたすけをもとめにいったこと。

山にモラリィの花をとりにいったこと。

ノームたちが魔女を看病かんびょうしてくれたこと。

帰ってから、おクスリをつくったこと。

「そりゃもう、たいへんでしたわ。それにしても、ドッペルゲンガーに出会ったのは不幸中ふこうちゅうさいわいといったところですわね。でも、わたくしだから、どうにかなったんですのよ。」

「グランディ。ありがと。あとノームさんたちもすっごく助けてくれたよね。」

魔女はあたしたちの話しをだまって聞いている。

あたしは……あたしは言いたいことがあった。それは……

「ノームさんたちは、ランダさんのためにいっぱいチカラをかしてくれたの。
だからもう『 召使めしつかいにする。』なんて……言わないで…ほしい……。」

『…………わかったよ。』

魔女は小さくつぶやいた。

あたしは思いがつたわって、とてもとてもうれしかった。





「ふぁぁぁ……あぁぁ…。」

あたしは大きなアクビをひとつすると、魔女のそばでコトンと横になった。

わからないけど、あたしは、立ってることができなかった。

目の前がだんだんとくらくなっていく。

でも、こわくはない。

あたたかくて、ふわふわなかんじじにつつまれる。それは……

そう、あたしはミシェルといっしょの布団ふとんのなかを思いだしていた。




つづく

 

 

万年霧の悪魔

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